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  1. 12.7.23 踊り続ける49歳

踊り続ける49歳

ニーナ・アナニアシヴィリ。バレエに興味がある人で、彼女の名を聞いたことがない方はいないでしょう。かつてのソビエトとアメリカ。2つの超大国を代表するバレエ団で、同時に頂点を極めた彼女こそ、前世紀末を象徴するバレエダンサーと言えると思います。

そんなアナニアシヴィリも既に49歳。一昔前のダンサーと言われても仕方のない年齢ですが、今も現役で踊り続けています。一人のダンサーから、母国グルジアの国立バレエ団芸術監督と、その立場は重みを増していますが、若いダンサーが多い同バレエ団にあっても、看板ダンサーであることは間違いありません。

最初は落胆

私は長い間バレエに携わっていながら、なぜか彼女を生の舞台で見る機会がありませんでした。しかし先日、山口県岩国市のシンフォニア岩国で、グルジア国立バレエ団の「白鳥の湖」の公演があり、初めてその雄姿を直接見ることができました。

非常に期待して見に行ったのですが、第2幕で登場したアナニナシヴィリの白鳥は、様々な映像で彼女のすばらしい白鳥を見てきた私には、手放しで賞賛できるものではありませんでした。49歳とはいえ、一定の身体のラインや技術というものは、舞台に上がるためには必要です。しかし、さすがのアナニアシヴィリにもほころびが目立ち、観客の反応も良いとは言えませんでした。コールドの白鳥たちも、踊りや表情があまりにも無機質。正直なところ、私はかなり落胆していました。

表情で踊りおぎなう

しかし、第3幕で雰囲気は一気に変わります。スペインの踊りなどの民族舞踊は、踊る喜びに充ち満ちていて、バレエの舞台を見ているというよりは、ヨーロッパのどこかの村祭りに迷い込んだかのよう。同じバレエ団とは思えない程の雰囲気の変わりようです。2幕の白鳥との対比もあってか、とにかく生き生きとしていて、テクニックなど度外視で見ているものを幸せにしてくれるのです。そんな良い雰囲気の中、真打ち登場。暗い表情一点張りだった白鳥とは正反対の、生き生きとした表情のアナニアシヴィリの黒鳥です。踊りの節々で見せる満面の笑み、小悪魔の様な妖艶な笑み。第2幕で気になった技術的なほころびが、正されているわけでは決してありません。しかし、その表情が変わっただけで、観客は彼女の踊りに飲まれていきました。

芸術とは「表現者の複雑な感情を、なんらか手段で見る者に伝えることである」と言うことができるとすれば、彼女はそれを表情だけでやってのけるのです。厳しい観客は、彼女の踊りに完全に満足することはできなかったでしょう。しかし、容姿や技術といったものを越えた何かが、観客の心に残ったことは間違いありません。もしアナニアシヴィリにあの豊かな表情がなかったら、今の年齢まで人を魅了し続けることはできなかったのではないでしょうか。

牧阿佐美バレエ団と対照的

グルジア国立バレエ団の白鳥の湖は、数年前に見た牧阿佐美バレエ団のそれとは対照的なものでした。牧阿佐美バレエ団はとにかく白鳥のコールドの美しさが際立ち、一方ソロや少人数の踊りは魅力に欠けました。一方のグルジアは、コールドは細かいミスが多すぎて見るに堪えない部分が多かったですが、民族舞踊の生き生きとした表情は素晴らしいの一言。同じ演目で、これだけ特徴が異なるというのも、非常に面白いと思いました。

アナニアシヴィリ率いる、グルジア国立バレエ団の活躍に今後も期待したいと思います。