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  1. 12.2.4 現代に蘇った「赤い靴」

現代に蘇った「赤い靴」

現代の踊りに失われた自由さがここにはあるーーー。この映画を見て、私はそう思わされ、反省させられました。

みなさんは「赤い靴」というバレエ映画をご存知でしょうか?1948年にイギリスで制作された非常に古いものなのですが、スピルバーグやコッポラが今も賞賛を惜しまない、最高のバレエ映画と言われています。しかしながら、やはり60年以上の前の作品。現代の技術で撮影された映像とは画質の差があまりにも大きく、最近では見られる機会も少なくなっていました。

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しかし、その作品が現代の技術で蘇ったのです。この2009年版「赤い靴」は、映画監督のマーティン・スコセッシ氏が、オリジナルネガをすべて修復し、デジタルリマスターしたもので、1948年当時の、いやそれ以上の美しい映像となっています。従来のDVDなどを見られたことがある方は、ぜひ一度ごらんいただければ、その差はすぐにわかるとことと思います。

この映画には「赤い靴」というアンデルセン童話を元にしたバレエが、中盤に20分間程収録されています。本当に短いバレエなのですが、精細な映像で当時のダンサーの踊りを見ることができる貴重な資料。サドラーズ・ウェルズ・バレエ団(ロイヤル・バレエ団、バーミンガム・ロイヤル・バレエ団の前身)のプリンシパルだったモイラ・シアラーの踊りは、良くも悪くも現代の踊りとは大きく違います。

私が十代の時にこの踊りを見たら「足が内足だ」「膝が伸びていない」などといった、表面的なマイナス面だけが気になってしまったでしょう。しかし、彼女の踊りはそういったテクニックとは別次元の「表現者」としての魅力があるのです。バレエを自らの表現の手段として、形にとらわれず本当に自由に踊っている。生き生きとした表情、形を崩しながらもそれを気にもしていない四肢の動き。心と身体が一体となった、踊りの原点がそこにはあると思います。

これだけの踊りを自分のものとして踊るには、バレエの基礎を熟知していなければなりませんから、その練習量は相当なものだったのだろうと想像できます。もちろん、60年以上経っていますから、現代のダンサーの方が技術的には上でしょう。しかし彼女の踊りは、現代のクラシックバレエ界で失われてしまった大切なことを教えてくれます。身体から醸し出される「何か」がなければ、その正確さ、美しさも意味をなさないのではないでしょうか。人の心にずっと残り続ける踊りは、形の美しさより表現できる力なんだと、あらためて考えさせられました。

「マーゴット・フォンティーンのようなダンサーが、なぜ現代には生まれないのか」。ローザンヌ国際バレエコンクールの年配の審査員がこうこぼしていたと、振付家の島崎徹さんがおっしゃっていました。私もシアラーに教えられたことを大切にし、日々のレッスンに挑もうと思います。